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Dr.コラム

高血圧について⑤

高血圧症のように,体質や加齢以外に,生活習慣が発症や進行に関与する病気が,生活習慣病です.以前のコラムでも挙げているように,高血圧症,脂質異常症,糖尿病がその代表ですが,高尿酸血症,アルコール性肝疾患,歯周病などもそうです.

血圧が高いと,血管が血液の水圧で傷ついていきます.悪玉コレステロールや中性脂肪といった脂質に溢れた血液では,脂汚れで血管に目詰まりが生じます.血糖値が高いと,過剰なブドウ糖が活性酸素を発生させ,血管を傷つけていきます.全てが血管にダメージを与え(動脈硬化),心筋梗塞や脳卒中に繋がります.

健康作りのための様々な取り組みの総論として,「食事や運動によるカロリー管理で適正な体重・体型を保つこと」が,非薬物療法としてまず行われるべきことです.しかし,なかなか食事の節制や運動が,続かない,できない…

続かない,できないには,食べたい楽したいの欲求に勝てない,そもそもする気がない,仕事柄試食や味見が多く塩分やカロリー過多になりがち,仕事柄昼夜逆転していて生理的な身体の働きと摂食や睡眠のタイミングが合わない,足腰が悪く運動ができないなどなど,様々なできない理由があります.十分な取り組みができていても抗いきれない分があり,治療目標に達さない,という例もたくさんあります.遺伝的素因や加齢による代謝の衰えなど,どうにもできない要素もありますからね.

食事運動療法でも不十分ならば,投薬治療が提案されます.取り急ぎ病状を良くする必要性から,最初から投薬治療を開始することもあります.

そこでしばしば出くわすのが,「薬を始めたらずっと飲まないといけなくなるし,薬が次々増えるから飲みたくないです.」という患者さん.西洋医学的な治療よりも民間療法を強く希望している人でなければ,それは生活習慣病への知識や理解の不足,もしくは物事の重要度を取り違えていると思います.

古き時代,何かしらの重病の発症は,それ即ちその人の運命,生物としての寿命でありましたが,生活や衛生状況の向上,医学の発展などにより,現代人はいくつかの疫病を克服し,いくつかの病気に抗う術を得た結果,寿命を延ばしてきました.出来るだけ健康に長く生きていくために防げる大病は防ごう,防ぐ努力をしよう,そのための方法論があるのだから目を背けないで真摯に向き合おう,というのが,生活習慣病治療です.

ごく稀に「薬を飲むのは嫌.」=「(下手したら即死や五体不満足になるかもしれない危険は承知だが,命に変えてでも)薬を飲むのは絶対に嫌.」という人もいますけどね.

生活習慣病の治療の目的は予防し得る致命的な大病の予防ですから,強制する治療ではありませんが,逆に断固拒否する程の理由もなければ,拒否することでの本質的なメリットもないと思います.

薬は,病院や製薬会社の商売のために飲まされ続けるのではありません.予防とは未来の出来事を回避するために今やることであり,1年後も10年後も,その時点の今における将来の予防を図ろうとする限り,投薬が続いて当然です.

そして薬が増えるのも,いつまでも良くならない生活習慣の継続と加齢によって悪化していく病状に追いついていくためには必然なことです.逆に加齢によって,歳なりに痩せたり,推奨される治療強度が弱まったりしますから,減薬〜投薬終了となることもあります.

「値が良くなっても結局薬が続くんじゃん.だから治療には抵抗があるんです.」という人もいますが,生活習慣病の投薬治療は根治療法ではなく対症療法です.薬を飲んでいるから値が良いのです.やめたら元に戻ります.根本的な原因である生活習慣や体質を改善できるのは,本人の行動であって薬ではありません.薬をやめても良い値が維持できるくらい,生活習慣の十分な改善を成し遂げ,将来も継続できる実行力と精神力があれば,薬は終了できます.

中には,薬でないと得難い効果や恩恵があるため,食事運動療法が十分でも投薬をすることがあります.例えば一部の降圧剤の腎臓保護作用とか.一部の糖尿病治療薬によって体重減が後押しされることもあります.

生活習慣病の治療の目的を理解し,闇雲に治療を拒否しないほうが賢明です。

さて,そんな一方,生活習慣病界隈で最近騒がれているのが「クリニカルイナーシャ」.それは,長い通院や馴れ合いのうちに,治療が不十分なままアップデートされなくなってしまった状態.例えば,「まぁこれくらいじゃ大丈夫よ.」と実は不十分な治療が惰性で続いていたり,医者から治療強化を言い出しにくい関係性になってしまっていたり,「このままにしておいて下さい.」「薬は同じでいいです.」という患者さんの言葉に医者が甘んじていたり,そんな惰性的で不十分な治療に陥ってしまっている状態.顔も見ず聴診器も当てず処方箋だけ出すような診療はイナーシャ以前の問題ですが.

「前の病院の医者は,時々薬を修正しようとしてくるから,なんかうざかったんだよね.今の医者はずっと同じ薬のまま増やさずにいてくれるから安心,まぁ薬が減るような話も無いけどね.…そういえばあの薬やあの薬,いつまで飲むんだろう…もう病院移って2年になるけど血液検査とか1回もしたことないな…」

ゾッとした場合は,次の受診の時にきちんと主治医と話してくださいね.

脂質異常症や糖尿病の話は別のドクターにお任せし,次は生活習慣病ではなく神経疾患の話にしていこうかと思っています.

甲斐リハビリテーションクリニッククリニック 副院長 一瀬佑太

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