甲斐リハビリテーションクリニック副院長の一瀬です.
今回は「脊髄小脳変性症」についてお話しします.
脊髄小脳変性症は,小脳を主として,その他いくつかの神経系統の変性を起こす疾患群で,未だ根治治療のない緩徐進行性の難病の一つです.病気の説明にあたり,まず,小脳のことを知っていただきましょう.
小脳はどこにあり,どんな機能を担っている脳なのでしょうか.「脳」と言われて皆さんが思い浮かべるのはおそらく「大脳」です.大脳が意識,思考,記憶,運動,感覚など,体のこと全てに関わっているということは何となくイメージできると思います.一方,小脳はというとあまりピンとこないでしょう.
小脳は大脳の後下方,首の後ろ側のいわゆる“襟足”のすぐ奥にあり,運動を繊細に制御するための脳,言い換えれば,動作を正確・精密に行うためにコントロールしている脳です.大脳や脊髄,前庭器官(内耳)などと神経のネットワークを組んでおり,全身の運動をコントロールしています.例えば,目の前にある物を取ろうと手を伸ばした時,手前でもなく奥でもなくその物ぴったりの場所に手を届かせることは,小脳の働きなしにはできません.鼻を触ろうとして目や頬ではなく鼻に手が届くのも,小脳があってのことです.
小脳が障害されてしまうと,目標地点で正確に手を止めれず通り過ぎてしまったり(測定障害),動作の開始から到達地点までの間で左右上下などにぶれてしまいます(運動分解).
他にも,膝が伸びた時には太ももは縮む,とか,ある姿勢や運動に際してこの筋肉は縮んでこの筋肉は伸びて…と,別々の筋肉が同時に正確に動いてくれるのは,小脳の働きによります.別々に動く筋肉たちを何か目的のためにまとめて動かすことを,協調運動(協同運動)と呼びます.よって小脳が障害されると,あらゆる動きがぎこちなく不安定,不正確になってしまいます(協調運動障害,協同収縮異常,反復拮抗障害).前述のような測定障害や運動分解も,協調運動がうまくいかないことにより,麻痺や振るえ,距離感の問題ではありません.
他にも,まっすぐ立っていられず,歩けばグラグラしてしまったり(体幹失調),目線がぶれてしまったり(小脳性眼球運動障害),発声に関わる筋肉の協調運動障害によって呂律が悪くなったり(小脳性構音障害)等々,小脳の障害は様々な症状を引き起こします.
ご理解いただけたでしょうか.小脳は協調運動の中枢.すべての運動を正確かつ精巧に遂行させるための脳.そしてその働きは無意識のうちに自動で行われています.
次回へ続きます・・・