055-278-2016
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一瀬副院長ブログ

神経筋疾患の診断について➀

先日,ある研修会で神経筋疾患の診断について講演をする機会をいただきました。

今回は、その際にお話ししたことをご紹介したいと思います。我々脳神経内科医が、どのように病気を診断しているのか、です。

 

脳神経内科の外来には、実に様々な症状の患者さんがいらっしゃいます。例えば、振るえ、めまい、ふらつき、歩きにくさ、脱力、痺れ、頭や体の痛み、不眠、物忘れ、倦怠感などですが、それらの原因は必ずしも神経筋疾患とは限らず、脳神経外科はもちろん、整形外科、精神科や心療内科、循環器科を始めとする種々の内科にかかるべき病気もたくさん混ざってきます。老化や疲労が原因で病気ではないこともありますし、痺れなどは単なる気のせいであることもあります。ふらつきや脱力なんかでは、無意識の演技である患者さんや意図的な詐病にも出会います。

 

また、脳神経内科を主科とする病気はたくさんあり、内科系の医学書や医学生向けの参考書などでも最も多くページが割かれる領域で、脳神経内科医向けの清書などには400〜600程の数の疾患(脳腫瘍や小児の先天性神経疾患を除いて)が掲載されています。どうやって、それらの神経筋疾患とそうでない疾患を見極めていくのか。例えばめまいやふらつきは、脳梗塞による大脳や脳幹の異常かもしれません。小脳の異常によることもあります。脊髄や末梢神経の異常による深部感覚障害なのかもしれません。世間でメニエルとよく言われるような耳の三半規管の不調かもしれませんし、血圧の変動や不整脈のせいかもしれません。足腰の問題をふらつきと感じているのかもしれません。人は精神的なストレスや疲れでクラクラすることもあります。全て正しく見極め、患者さんの理解と納得を得られないと、正しい治療に導けません。そんな、我々脳神経内科医の診療の基礎を、ご紹介します。

 

 

そもそも、神経筋疾患とは、脳〜脊髄〜末梢神経〜筋肉に至る、臓器としての神経システムに物理的な異常がある病気です。かつて神経科という、今でいう精神科や心療内科のことを指す科があったことの影響や、世間では精神的な負荷に関わって「神経を使う」「神経をすり減らす」「神経を病む」などという言葉を使うことなどから、いまだに精神と神経が混同されることがありますが、我々が扱う神経は、精神ではなく、臓器として形ある神経です。血管と同じようにナマモノとして脳から全身にかけて身体の中に張り巡らされている末梢神経や、脳や脊髄に存在する神経細胞です。当然、どこの神経はどうなっていて、どのような機能があって、異常を来すとどうなるのかが、医学として体系化されていますので、症状に応じて然るべき診察を行い、複数の神経システムの正常異常を洗い出すことで、身体のどこに異常があるのかを判断することができます。

 

そんな知識をもとに、診断のSTEP1。

まずは患者さんの訴えと診察所見から、病変部位の見当をつけます。診察では、心拍、呼吸、触診などの一般的な内科診察に加え、神経の診察として、意識や認知機能・高次機能の異常、脳神経(第1〜12脳神経)の異常、筋肉の異常(筋力、萎縮や肥大、筋緊張)、深部腱反射の異常、病的反射の有無、感覚系(表在感覚、深部感覚)の異常、小脳系の異常、不随意運動の有無、歩行の様相などを確認することで、症状の原因が中枢神経系(大脳、脳幹、小脳、脊髄)にあるのか、末梢神経系(脳神経、脊髄神経)にあるのか、筋肉の問題か、はたまた精神的な問題(心因性、ヒステリー、詐病)かがわかります。

 

次にSTEP2。

症状の発症様式や経過から、病因を絞り込みます。例えば、突発的に症状が完成して発症するものとして、脳卒中やてんかんがあります。これらは1日以内に症状がはっきりと現れます。何月何日何時何分かまでわかることもあります。数日から一週間くらいかけて徐々に症状が現がる急性疾患や、数ヶ月かけて進行する亜急性疾患としては、髄膜炎や脳炎・脳症、脳腫瘍、筋炎などの疾患群が該当します。もっとゆっくり、半年以上かけてじわじわと進む慢性発症疾患には、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病、遺伝性の神経変性疾患などがあります。突発的に症状が起きたり良くなったりを繰り返す、片頭痛やてんかん、多発性硬化症や重症筋無力症などの再発性の疾患もあります。その症状と異常な診察所見を説明可能な疾患の中から、それまでのストーリーを踏まえて、診断候補を絞り込むのです。

 

そしてSTEP3。

年齢による疾患頻度などの疫学情報や、家族歴、併存疾患なども踏まえて、診断をさらに絞り込みます。あとは、血液検査や髄液検査、神経機能を評価するための各種専門検査や画像検査を行なって、診断の確認作業です。異常なしと考えた部位や検査には、確かに異常がないことを確認。異常があると考えた部位や検査に異常があることを確認し、写真や数値で表せる客観的証拠を導き出します。

 

しかしながら、現実、少し難しい症例になってくると、一人の患者さんに複数の訴えが存在し、診断に難渋することもあります。そんな症例において大事になるのが、この3ステップにおける2つの鉄則です。

 

次回に続く...
甲斐リハビリテーションクリニック 一瀬佑太

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