前回の続きから…
最後に,パーキンソン病の歴史に触れておきます.数多ある神経筋疾患(実は神経筋疾患は,あらゆる科の中で疾患の数が最も多い分野です),中でも神経変性疾患においては,抗体医薬品や核酸医薬品の誕生以前から多くの有効な薬が存在している(唯一の?)疾患ですが,それすらも長きに渡る治療法のない時代を越えてのことでした.
パーキンソン病は,1817年に初めて論文報告がされましたが,それから150年程,有効な治療薬がない時代が続きました.ドパミン不足が原因であると判ったのは1950年代で,特効薬のレボドパが使えるようになったのは1970年初頭です.それまでは,幾分の効果が見込める抗コリン薬という薬のいくつかが使われていましたが,それすらも1960年頃になってのことでした.レボドパの登場以降,薬が徐々に増えていきましたが,現在主役となっている薬は1990年代後半以降に発売された薬たちです.国内では2006〜2024年の15年間で,薬の選択肢が2005年までの倍以上の数に達しており,2025年現在,飲み薬,貼り薬,注射薬など併せて30種類ほどの薬が存在しています.
パーキンソン病は,レボドパが誕生するまでの150年以上の間,発症すると10年以内に完全に寝たきりになり命を落とす病気でしたが,治療薬の進歩により,未だ完治はできないとはいえ,生命予後が劇的に改善され,今や寿命を縮めることのない疾患と言われるまでになりました.平均余命は一般より2〜3年短いですが,発症が60歳の男性であれば80〜82歳,60歳の女性であれば85〜87歳くらいまでの余生が見込めます(平均的にであり,個人差はあります).ちなみに現在の日本人の平均寿命(0歳の平均余命)は,男性が81歳,女性が87歳です.実際,発症から15年以上経過しても病状が中等度にとどまり,寝たきりを免れている症例がほとんどです.70代や80代で発症しても,多くの症例が90歳を超えます.当然その年代になれば,パーキンソン病以外の色々なことが体調に影響してきます.パーキンソン病に命を脅かされぬまま老衰を迎え,天寿を全うされる患者さんも少なくありません.先に述べたように,パーキンソン病でも抗体医薬品や核酸医薬品の治験が進んでいますから,更に予後が良くなる時代がいずれやってきます.
ほとんどの疾患が,近代になって論文で報告され医学会に知られるよりもずっと昔,先史時代よりも前から世に存在していたのだろうと思います.古代文明の成立以降でも約5000年,近世以降でも230年程のあまりに長い年月のうちたった0.4〜9%に過ぎない直近の20年間で,これまで抵抗不可能だった病気に抗う薬が誕生しています.さらに20年後には,いや10年後,いやいや数年後にも,神経筋疾患の治療は更に進歩しているはずです.
患者さんやその家族,診療にあたった医療者たち,治療が叶わなかった全ての先人たちが「いつか治療が実現するように」と願っていたことでしょう.完治までの道のまだ序盤ですが,その道の出発点にようやく辿り着き,既にゴールを目指して歩き始めているのは確実です.僕なんかよりもっとずっーーーーーーーーーーーーーと優秀な,世界中の研究者の方々が成してくれたことですが,自分がしたことのようにかっこよく言いました.
「とはいえ今,私は治らないじゃないか」と悲しまないでください.いつか来るチャンスを掴まえられるように前を向いて備えていないと,そのチャンスを逃します.比喩や綺麗事ではなく,本当にそうです.治験にも実際の治療にも,当然副作用や適応条件,治療費用など,悩む要素が必ずありますから,提案されたときに,覚悟を持って迷いなく治療に臨む闘争心と眼差しでいてほしいと思います.
甲斐リハビリテーションクリニック 一瀬佑太