055-278-2016
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一瀬副院長ブログ

神経筋疾患の診断について②

前回の続きから...

 

まず鉄則1。必要以上の仮説を立てずに、複数の症状を一括りに説明できる病気を考えます。これはあらゆる推理の場における鉄則でもあるかと思いますが、なるべく最小の仮説で全ての事柄を説明できるものが真実であることが多いです。我々の業界では「一元的に説明可能かどうか」と表現されますが、脳神経疾患や総合診療の場に携わる医者は日々意識していることだと思います。よって、診察所見に誤りがあったり、見落としがあったりすると、一元的に説明するための情報が揃わず、真実が見えてこないことがあります。

 

一方、鉄則1と相反する鉄則2。特に壮年期以降は、稀で複雑な病気よりも、よくある病気が複数合併している可能性の方が高い。椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの整形疾患、いわゆる隠れ脳梗塞による運動機能障害や認知機能障害、うつ病や不安神経症などの精神疾患などは、稀な神経筋疾患に比べてずっとよくある病気であり、何かの神経筋疾患に合併することが当然あります。これを忘れて鉄則1だけを意識していても、無い病気を探し続けることになって一向に診断が付かなかったり、誤診に繋がったりします。

 

例えば、パーキンソン病に基づく動作の緩慢さや歩行障害に加えて、重度の頚椎症による脊髄障害による痺れや感覚性失調(ふらつき)と足腰の筋萎縮や筋力低下があれば、どれだけ十分にパーキンソン病の治療が成されても、頚椎症による脊髄障害の影響で歩行機能の回復には限界があります。そんな患者さんに、なかなか良くなりきらないな、パーキンソン病では痺れや感覚性失調は起こらないはずだから診断が違うんじゃないか?全てを一括りに説明できる神経筋疾患はなんだ?などと考えていくら精密検査を行っても、頚椎症性脊髄症を合併したパーキンソン病です。

 

さて、以上のような3ステップと鉄則2つのもとで、様々な訴え・症状から診断を導き出すのですが、最終的にはSTEP3の通り、客観的証拠を見出すことが必要です。例えば、何かしら既知の抗体が原因である病気ならば、その抗体の目星さえつけば、血液検査や髄液検査で陽性確認をして診断確定です。末梢神経の病気ならば、神経伝導検査で異常が確認されます。脳の病気ならば、MRIやSPECT検査やPET検査で何かしらの異常が写ります。遺伝子検査や筋肉や神経の生検で診断が確定される病気もあります。

 

客観的証拠が無ければ、その病気であるが、検査感度の限界によって偽陰性となっている症例や非典型的な症例かもしれません。どんな検査も感度100%ではなく、どんな病気にも非典型例が存在するため、難解な病気の診断基準は、客観的証拠や状況証拠を複数併せて診断するように設定されています。真の診断に辿り着いていない可能性も当然あります。

 

また、客観的証拠が無い場合、心因性の症状もしくは詐病である可能性もあります。例えば、めまい、ふらつき、脱力、物忘れ。さらには、痺れ、痛み、動悸、息苦しさ。全て、患者さんの訴えだけでは気のせいである可能性、嘘や演技である可能性があります。痙攣ですら、心因性や演技であることがあります。我々脳神経内科医は、ある症状がどんな様子なら真実でどんな様子なら嘘っぽいか。身体所見上、どんな所見が真の異常で、どんな所見は心因性や演技であることを示すのかを心得ています。気のせいで血液検査が異常にはなりませんし、演技でMRIに異常は出せません。それと同じように、身体所見の段階でも、気のせいや演技ではそのようにはならないという所見があり、逆に、気のせいや演技の場合はこのようになるという所見があります。心因性の症状の場合は、そういった身体所見や経過、対症療法の投薬やプラセボ投薬の結果などの状況証拠と、検査で他の病気を示す客観的証拠がないことから診断します。患者さんの症状が心因性であるなら、その症状の引き金となったストレスを特定し解決することが根本的な治療になりますから、確固たる自信を持って心因性だと診断できなければなりません。患者さんが「気のせいじゃない!」と怒ってトラブルになるのではないか、何かを見落としていて後々訴えられるのではないか、などと思って誤魔化すように適当な診察をしていては、誰にも利益がありません。

 

 

以上、今回は我々脳神経内科医の診療の基礎をご紹介しました。

私の師は「脳神経内科の病気の診断は、名探偵コナンの世界だ」と仰っていましたが、確かに推理のような醍醐味があります。ただ、フィクションのように、犯人(病気)を突き止めて事件解決・大団円とはいきません。医者の真価が問われるのはその先です。特に、今日の医学ではまだ完治しない病気を今日この瞬間どう診るのか。いつまでも反省と精進の日々ですが、患者様一人ひとりに一所懸命向き合いながら、信念持って診療に励んでいます。

甲斐リハビリテーションクリニック 一瀬佑太

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