数回、治療薬についてのお話をしてきましたが、この後説明していく治療薬の特徴や、なぜその治療薬が必要とされるのかを説明する上で、パーキンソン病の治療中に予想されるトラブルについて説明しておきたいと思います。
パーキンソン病の治療の中心となる治療薬はL-dopa製剤です。内服することで速やかに効果を発揮し、特に発症初期の段階であれば症状を改善する効果も非常に優れています(個人差はありますが)。副作用も眠気や嘔気が見られることがありますが頻度は少なく、問題となることはあまりありません。
一方で欠点もあります。L-dopaは体内に取り込まれた後、私達の体の中にある幾つかの酵素によって分解されてしまうので、有効に使用するために対策を立てなければなりません。また、体内に留まる時間(半減期といいます)が90分前後と非常に短いのも大きな欠点です。つまり、朝7時に朝食を食べて、7時半に内服をして、20-30分後から効き始めたと思ったら、9時半ごろには効果が弱くなってしまう、ということになります。
実際は、発症早期の患者さんに関してはこういったことは起こりませんが、進行期の患者さんについてはその通りになり、治療薬を内服して暫くの間は症状が楽になっていたのが、数時間経過すると治療薬の効果が弱くなり、身体が重くなったり手足が動かしにくくなったりと症状が悪くなる、ということが起こります。つまり、1日の中で治療薬の効果にムラが出来てしまい、パーキンソン病の運動症状に波が出てしまうのです。このことを、『ウェアリングオフ(wearing-off)』と言います。治療薬の副作用というわけではなく、効果が不安定になってしまうことで起こる運動症状の変動で、運動合併症と呼ばれるものの一つです。
患者さんの経過が長くなり病気がさらに進行すると、ウェアリングオフによる症状の変動がさらに急激になります。具体的には、数分前まで普通に歩けていたのに、治療薬の効果が切れてきたと患者さんが自覚してから、数分もすると起き上がれなくなってしまうほど症状が悪くなる、という状態になることもあります。その状態から、また治療薬が効いてくると速やかに動けるようになるので、電源のスイッチをオンにしたりオフにしたりするのと同じような様子から、
『オンオフ(on-off)』と呼びます。ウェアリングオフのより急激な状態と考えてください。
もう一つの運動合併症に、『ジスキネジア』という症状があります。
これは治療薬が強く効きすぎているときや、急激に治療薬の効果が出てくる時、あるいは急激に効果が切れるときに伴う症状で、手足や頚、体幹をクネクネと動かしてしまうものです。周囲から見ると、患者さんはソワソワして、一見落ち着きがないように見えます。パーキンソン病の振戦と違い、一定のリズムはなく、不規則に手足・身体を動かし続けます。座っていても、立っていても、歩行時にも見られ、患者さんは自分では気付いていないこともあります。
治療薬が強すぎてジスキネジアが出ているときは、治療薬を減量すれば落ち着きますが、減量しすぎると運動症状が悪くなり、患者さんは動きにくくなってしまうので、調節は慎重に行う必要があります。
運動合併症である、『ウェアリングオフ(wearing-off)』、『オンオフ(on-off)』、
『ジスキネジア』はいずれも治療薬の効果に強弱の波が出来てしまうと出現しやすくなります。一方で、L-dopaの欠点である作用時間の短さは、この強弱の波を作り出す大きな原因となってしまいます。L-dopa以外の治療薬はこういったL-dopaの欠点を補ったりする役割を持つものや、1日通して効果が持続する特徴をもつ薬であり、L-dopaと組み合わせたり、症状が軽い時であればL-dopaの代わりに活用されたりします。次回からは、それらの治療薬の紹介を続けたいと思います。
甲斐リハビリテーションクリニック 院長 三輪道然