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Dr.コラム

神経筋疾患の新薬について②

前回の続きから…

次に,遺伝性疾患の場合は,遺伝子の変異,つまりは体を作る細胞や物質の設計図の段階にミスがあることが原因です.作られた物質が正常な機能を失っていたり,病的な機能を持ってしまっていることで,様々な障害を起こします.よって治療は,設計図自体を修正するか,物質を作る工程で修正や工夫をするか,出来上がった物質の機能を他の手段で補うか,ということになります.根本的には設計図の修正が一番ですが,染色体やDNAレベルの異常を修正するのは非常に難易度が高い治療法です.

現代医学では,遺伝子に一部手を加えることは可能になっていますが,目的の遺伝子変異だけを正確かつ新たな異常を発生させないように制御して正常な遺伝子に作り変えることはまだまだ難しく,根本的な完治を望める遺伝子治療は実現していません.しかし,物質を作る過程に修正を加えて機能改善を得る治療薬は既に使われ始めています.それが核酸医薬品です.さらに遺伝子そのものに(もしくはそのものとして)作用して機能を改善するのが遺伝子治療薬です.

例えば脊髄性筋萎縮症という病気に対して,2014年に「ヌシネルセン」,2020年に「リスジプラム」という薬が世界中で発売されています.「ヌシネルセン」は核酸医薬品です.脊髄性筋萎縮症の原因遺伝子はSMN1という遺伝子ですが,人は誰でもSMN1とは別に,双子のように酷似したSMN2という遺伝子を持っています.SMN2SMN1と同じ蛋白質を作れる設計図になっているのですが,作業工程において最終的に出来上がる蛋白質が良くも悪くも機能しない簡略版(不完全版)となるような仕掛けが施されています.「ヌシネルセン」はこのSMN2の仕掛けを外すことで,変異したSMN1が作る異常な蛋白質に対抗して,SMN2から正常な蛋白質の完全版を補充させる薬です.「リスジプラム」は遺伝子治療薬で,遺伝子変異を修正することはしませんが,薬として正常な遺伝子を体内に補充し機能させます.

遺伝性の神経筋疾患でおそらく最も有名なのは,デュシェンヌ型筋ジストロフィーです.2020年に「ビルトラルセン」という核酸医薬品が発売されましたが,設計図を読み解く過程を修正し,ベッカー型筋ジストロフィーという,デュシェンヌ型よりも軽症な筋ジストロフィーに変化させます.完治はしないものの,10歳までに歩けなくなるはずの病気が,歩ける状態で成人を迎えられるようになりました.海外ではデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬として,他に3つの核酸医薬品が発売されています.

他にもパーキンソン病,多系統萎縮症,脊髄小脳変性症などを対象に,抗体医薬品や核酸医薬品の開発・治験が進んでいます.長らく治療不可能とされてきた手強い神経筋疾患において,革命的な変化が既に起きている現代ですから,患者さんにはどうか挫けずにいてほしいと思っています.

 

この続きは次回お話します...

甲斐リハビリテーションクリニック 一瀬佑太

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