糖尿病専門医の磯部です。
第8回のテーマは「インスリン注射療法」です。
インスリン注射は重症な糖尿病に使われるとても高度な治療だというイメージが持つ方も多く、患者さんにも医療従事者にも敬遠されがちですが、今回はインスリン注射についてもっと知っていただけたら嬉しいです。
- インスリンとは何か
インスリンは膵臓から分泌される消化管ホルモンのひとつで、血液中のブドウ糖の濃度が上昇すると、インスリンが分泌され、筋肉、や肝臓、脂肪に作用して、ブドウ糖を細胞の中に取り込ませることによって血糖値を下げることができることができます。
- インスリン注射が必要不可欠な病態
1型糖尿病の方
妊娠中の方
膵癌の術後などインスリンの分泌が低下している方
長年の2型糖尿病でインスリン分泌が低下している方
腎機能障害や肝機能障害がある場合
糖毒性を積極的に解除したい場合
著明な高血糖や尿中ケトン体が陽性の場合
感染症治療中や手術の前後
*糖毒性:高血糖が続くことになり、インスリンの働きが悪くなり、分泌も低下することで、悪循環となり、高血糖状態がさらに悪化すること。
- インスリン注射の種類
様々なインスリン注射製剤がありますが、よく使うこの2種類について紹介していきます。
- 持効型溶解インスリン
基礎インスリンの補充を担うインスリン製剤になります。我々体内では食事を摂っていない時間帯でも肝臓からの糖産生と膵臓からのインスリン分泌が行われていて、ほどよい血糖値を保っています。これが土台となる基礎インスリンです。持効型インスリン製剤は効果が24~42時間程度と長く、食事のタイミングに関係なく打つがことができて、基本1日1回の注射になります。
- 超速効型インスリン
食事を食べるとインスリンの追加分泌が起こりますが、この追加分泌分のインスリンの役割を担うのが超速攻型インスリン製剤になります。
作用発現が早く、投与後10~20分で効果を発揮し、持続は3~5時間となっています。1日1~3回、基本食事の直前に投与する必要があります。
図:基礎と追加
ノボ ノルディスク社 糖尿病サイトより抜粋
まとめ
「インスリン注射は治療の最終手段ではありません」
「重症患者さんだけではなく、様々な糖尿病の病態で必要不可欠な治療です」
「使い方を間違えると命に関わることもあるので、単位の増減や中止は必ず自己判断せずに主治医に相談してください」
インスリン注射を用いた治療は煩雑さや疼痛を伴うことは確かですが、患者さんに状態によっては病状を速やかに改善し、安定した血糖推移を保つことができるのもまた事実です。みなさん一人ひとりの糖尿病の治療において、インスリンが最善な治療方法である際には提案させていただきますので、不安や疑問に感じていることをぜひ教えてください。共に解決していきましょう。
甲斐リハビリテーションクリニック 磯部 さやか