糖尿病専門医の磯部です。
第7回のテーマは「糖尿病の運動療法」です。
糖尿病の治療の3本柱は「食事療法、運動療法、薬物療法」ですが、今回は運動の取り込み方について紹介したいと思います。まず、運動によって血糖値が下がるメカニズムは2つあります。
一つ目は急性効果といって、運動するためのエネルギーとしてブドウ糖や脂肪酸の利用が促進され、血糖値が低下します。
二つ目は慢性効果で、運動をある程度長期間継続することにより、インスリン抵抗性が改善し、運動をしていない時でも血糖値が上がりにくくなります。
運動療法といっても必ずしも特別な運動器具を使ったり、ジムに通ったりしなればいけないというわけではありません。運動の種類には有酸素運動、レジスタンス運動(筋トレ)、バランス運動、ストレッチ運動などがありますので、ご自身のライフスタイルに合わせて取り入れられるものをぜひ考えてみましょう。
- 運動療法のポイント
・運動を行うタイミング
食後1~2時間、午前中、つまり朝食後や昼食後が望ましい
・ウォーキングなど有酸素運動を行う方は
運動しない日が連続して2日を超えないように週に150分以上(たとえば週に1回2時間より毎日コツコツのほうが運動効果は高い
ウォーキングなら1日8000~10000歩程度、なるべく息が少し上がる程度の早歩き
・レジスタンス運動を行う方は
連続しない日程で週に2-3回、大きな筋肉を動かす運動を少なくとも5種類
・デスクワークが多い方は
座位が続いている場合は30分に一度立ち上がって軽い運動を行う(その場で足踏みや踵上げ。トイレにいく、お茶を飲みにいくだけでもいい)
・体重が重く腰や膝に負担がかかりそう、腰や膝の持病があり痛みがある方は
ストレッチ、座ってできる運動、腰痛体操、筋力トレーニング、水泳・水中歩行、自転車などを選択
・高齢者の方は
片足立位保持、体幹バランス運動やステップ運動など転倒予防効果のあるバランス運動
・天気が悪かったり、冬寒かったりすると運動が疎かになりやすい方は
ショッピングモール内でウォーキングする、自宅室内で行える運動を確立しておく(ラジオ体操や筋トレ、ストレッチなど)
- 運動を行う際の注意点
①内科や眼科の主治医に運動開始の可否や運動の強度を確認すること
HbA1c>11%、空腹時血糖が250 mg/dL以上のような血糖推移が不良な状態、尿ケトン体陽性時には運動を開始しないこと
運動開始前に必ず眼科を受診し、網膜症がないことを確認すること
②運動中や翌日までの低血糖症状に留意すること
低血糖症状が生じた場合は、運動中にブドウ糖などを持参し、運動前後のインスリン投与量を主治医と相談すること
まとめ
特別な運動をしようとせずに、無理のない範囲内で、なるべく毎日続けられる簡単な運動から始めましょう。
長年沁みついた生活習慣を変えるのは容易ではありませんし、無理をしてしまっては長続きも難しくなってしまいます。元々運動習慣がない方は、いきなりハードな運動や長時間の運動をしようとせず、1日5~10分からでいいので、まず継続することを心がけましょう。何から始めたらいいのか悩んでいる方はぜひ受診してご相談ください。
甲斐リハビリテーションクリニック 磯部さやか