糖尿病専門医の磯部です。
第4回のテーマは「糖尿病の合併症その1」です。
第1回で糖尿病の治療目的はとにかく合併症の発症を防ぐことだと説明しましたが、では具体的に糖尿病の合併症にはどういった疾患があるのかについて知っておきましょう。
まず糖尿病、つまり血糖値が過剰に高い状態が長く続いた影響で全身の血管が傷ついてボロボロになる、つまり動脈硬化を起こします。障害される血管の太さによって合併症を以下のように分類し、「えのき」と「しめじ」と覚えてください。
- 大血管障害
え:えそ 足壊疽
の:のうこうそく 脳梗塞
き:きょうしんしょう 狭心症・心筋梗塞
- 小血管障害
し:しんけい 神経障害
め:め 眼=網膜症
じ:じん 腎障害
今回は大血管障害について詳しく解説します。
足壊疽
足潰瘍・壊疽の原因として血流障害および神経障害があげられます。血流障害により足の血流が減少し、傷が治りにくく、感染しやすくなります。さらに神経障害があると「痛い」や「熱い」といった感覚が低下し、足に怪我や火傷があっても気付かずに悪化し、潰瘍や壊疽に至ります。フットケアの回でさらに詳しく解説しますが、定期的に足の状態をしっかり目で確認し、傷や水虫があった場合は早目に皮膚科を受診することが大事です。
脳梗塞
脳に栄養を送る血管が動脈硬化で閉塞し、血流が少なくなることによって脳神経細胞が障害を受け、様々な神経症状が出ます。介護認定者の原因疾患第2位となっています。糖尿病があるだけで脳梗塞の発症リスクが2~3倍高くなり、同じく脳卒中である脳出血やくも膜下出血に関しても発症時の糖尿病の存在は予後を悪くする因子として知られています。
狭心症・心筋梗塞
心臓に血液を送る冠動脈が閉塞することにより強い胸痛をきたすのが普通ですが、糖尿病による神経障害があると、その痛みを感じにくくなり、無痛性心筋梗塞を起こすこともしばしばあります。心筋梗塞は治療が遅れたり、梗塞が広範囲に及んでいたりすると命を落としかねません。糖尿病がない方と比べて糖尿病がある方の心筋梗塞では、閉塞している冠動脈の数が多い・広範囲・石灰化が強いなどの特徴があり、重症化しやすいです。
まとめ
糖尿病による大血管障害の合併症は発症した場合に致死的となることもあり、生活の質を大きく低下させます。予防するためには、HbA1cの管理のみならず、動脈硬化を引き起こしてしまう他の危険因子(高血圧、脂質異常症、喫煙など)も同時に治療しないと意味がありません。血糖値だけではなくて、血圧やコレステロールの値にも注目しましょう。
甲斐リハビリテーションクリニック 磯部さやか